シェンカー本との奇跡的な出会い

  • 2021-03-27
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シェンカーによる「ベートーヴェンピアノソナタ第31番」の分析本、ようやく何とか手に入れることができた。

 

ベートーヴェンのピアノソナタ30番の分析本を読んで、なるほどこれは名著だと知って、他のシリーズも興味を持ち、数週間前にYAMAHAに在庫検索の電話をかけたことから、この本と私のドラマは紡がれ始めた。

 

そう、在庫がないのだ。

YAMAHAに在庫がないどころか、シェンカーによるベートーヴェンピアノソナタの分析シリーズはメーカー(音楽之友社)欠品で重版未定とのこと。

…これはまた、名著が絶版の道を辿ろうとしている。

直感でそう感じた。

ずっとシェンカーの本を読もうと思いつつ、後回しにしてきた私にとっては、一刻を争う緊急事態だった。この類の本は絶版になると数万円以上の値がつき、とてもじゃないけど手を出せなくなってしまう。

 

私はこれまで、何度、この類の本で定価の数倍以上のお金を払ってきたか。あるいは、何度、一冊まるまる製本をすると言う地獄を味わってきたか。

…手持ちのお金がすっからかんになろうとも、親にお金を借りてでも、何が何でも絶対に、今、全シリーズを揃えなければならない。これは希望じゃない。使命だ。

 

そう感じた。

 

そんなこんなで、執念の問い合わせ作業が始まる。

山野楽器は全国欠品

YAMAHAは茨城と福岡に一冊ずつ(東京に取り寄せ不可)

紀伊国屋書店は全国欠品

三省堂書店は全国欠品

 

紀伊国屋書店にも三省堂書店にもなければ、もうだめだ…と入手を諦めてかけたちょうどそのとき、奇跡的にジュンク堂の沖縄の店舗に一冊だけ残っているとの情報を得た。

「傷みが少なければお取り寄せを〜」と言う店員さんに対して、私は「いや、どんなに傷んでいてもその本であればいいです。」と答えてしまうほどには、問い合わせ作業に疲弊していた。ジュンク堂に辿り着くまでに、何と1時間以上もかかったのだ。

そんなこんなのドラマを経て、二週間くらい前にはるばる東京まで取り寄せてもらうよう、頼んだのだ。

 

…となるとこの本は2013年に初版されたのだが、そのまま重版未定とのことだから、この本は8年前に刷られ──私が15才、中学3年生か、はたまた高校生なりたてくらいの頃に生まれて、音楽之友社から沖縄に出荷されたきり誰の手に渡ることなく、東京までまた遥々戻ってきた、ということになる。

そう考えると、奇跡的に出会えたこの一冊。出会いは、いつどこで果されるのか分からないにしても、震えてしまう。

出会いはいつだって、結局はタイミングだ。

 

この本を記した著者、ハインリヒ・シェンカーという人物について少し説明をしようと思う。彼は、1863年にガリツィア(現在のウクライナ西部)で生まれ、1880年代末にヴィーン音楽院で学び、またヴィーン大学で法学の博士号をも取得し、初期にはピアニスト・指揮者・楽譜校訂者・作曲家として、のちには学者・批評家・音楽理論家・分析者・教育家として活躍をした人物だ。音楽の才能に恵まれただけでなく、頭脳明晰な人物であったことが窺える。

彼の作品はブゾーニやブラームスに好意的に称され、彼の音楽評論は様々な雑誌に掲載されたようだ。また、かの著名な指揮者・フルトヴェングラーはシェンカーが1912年に発表した著作「ベートーヴェンの第九交響曲」を読み、非常に感銘を受け、フルトヴェングラーはヴィーンに住むシェンカーのもとを訪れて指導を仰いだほどだった。それ以降、フルトヴェングラーをはじめとする多数の音楽家たちの音楽作りにも影響を与えている。すなわち、シェンカー理論は「生きる実践的な理論」として、今もなお生き続けているのだ。

 

私がシェンカーのベートーヴェンピアノソナタ第30番の本を読んで、何に特に感銘を受けたかといえば、自筆譜に基づいた解釈法を深く掘り下げていたからだ。シェンカーが全てとは決して思わないけれど、少なからず自分の解釈の幅が広がるように思う。

 

ただ、内容を紐解くには和声学や対位法の知識が必要であるため、少なからず難解ではあるし、言い回しも嫌味な部分は少なからずある。それどころか、時折「何を読まされているんだろう」と言う気持ちにもなる。

こんなこと書いてるから重版未定になるんだよ、と読みながら突っ込んでしまった。

 

 

音楽を学んだり、本を読んだり、美術館に行って絵を見たりするたび、私がこれらのものが出会うまでにどれほどの人の技術と労力が費やされているのだろうと──昔の人が一生をかけて研究し、遺したものを、別の人がまた知恵と労力を注ぎ込んでまとめなおして、時代をもこえて今日私たちは手軽に享受できているのだと想像をすると、なんともいえないロマンを感じる。

ここまで執念による念願の出会いだったにも拘らず、実は、まだベートーヴェンの31番を勉強する予定はないのだが、ベートーヴェンの作品とのまだ見ぬ出会いのために、今日、私はシェンカーとの出会いを果たしたのだった。

 

p.s.

ジュンク堂池袋本店…つまり、東京音大の近くに、ストロガノフ専門店ができていたので、入ってみた。美味しかった〜

 

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