リゲティ ヴァイオリン協奏曲 l. prologue

 

 

 

こんにちは!須藤です。

 

またまた緊急事態宣言が長引いてしまいましたね。最近は、気分転換がてら、じっくり楽譜を眺める時間を取るようにしています。せっかくなので、その取り組みの備忘録として、こちらで。

 

 

リゲティのヴァイオリン協奏曲は全部で5楽章から成っていますが、今日は、その中の第一楽章・プロローグについてです。

ただ、こちらの譜面に関しては、著作権の関係でスコア全てを載せることは厳しいので、抜粋、抜粋…という形で書き記していこうと思います。興味がある方は、ぜひいつか、スコアを手に取ってみてください。

 

リゲティの新しさについて

まず、リゲティについて少しだけ書いておこうと思います。

 

1923年、ディチェーセントマールトン(現:ルーマニアのトゥルナヴェーニ)に生まれ、15歳ごろから作曲を始め、クラウゼンブルグ音楽院、ブダペスト音楽院(現:リスト音楽院)で学んだ後、6年ほどブダペスト音楽院で教鞭をとります。

リゲティ初心者の人に、まず聴いてほしいと思うのは、やはりムジカ・リチェルカータ。全11曲から成る小品で、1曲目では最後の音以外はA音のみを用いて(最後にD音が鳴らされるため、全2音)、2曲目はF、Fis、Gの3音…といったように、曲が進むにしたがって音が1音ずつ増えていくのが特徴です。

 

他にも、弦楽四重奏(1968)や、ピアノのエチュード(1985、1988-94)といった歴史的に重要な曲や、ポエムサンフォニック(1962)というメトロノーム100台を用いた実験的な曲も残しています。ヴァイオリン協奏曲は、は、1990年に3楽章形式で初版が発表されましたが、それから2年経った1992年に、完全版として、現在の5楽章形式の作品が発表されました。

リゲティの新しさについて述べるなら、その一つとして、「古典に回帰した点」が挙げられます。

この時代の作品は、十二音技法をはじめとした無調音楽が、当時の音楽界の作品の傾向でしたが、その中でユニゾンの響きを用いてみたり、単一楽章が多かった時代に、複数楽章から構成される曲を発表したりと 、現代のテクスチャーを用いながらも、古典的な要素を作品に組み込んでいたことがわかります。

リゲティが、アルディッティ・カルテットのリハーサルに立ち会った時、彼は特に強弱について細かく言及していたそうです。「古典作品の場合は、どんなに小さい音だとしても、モチーフが”聴こえる”音量で弾くことが原則だが、現代曲については”ほぼ聴こえない”音量も含むため、もっと幅広い表現が求められる。そのため、演奏家は強弱を正確に守る必要がある」と、アルディッティ・カルテットの人たちが、藝大で講座をされた時におっしゃっていました。

 

この記事で取り上げるヴァイオリン協奏曲は、最初のヴァイオリンソロはppppppで始まります。ほぼ何もないところから、この曲は始まるのです。

スコルダトゥーラって?

まず、この曲の演奏に際して、オーケストラパートのヴァイオリン奏者、ヴィオラ奏者の各1名がスコルダトゥーラ(学期の調弦をおよそ半音〜半々音ずらす)をします。

ヴァイオリンのスコルダ奏者は、コントラバスパートのG線のハーモニクス…第七倍音のF音の音をもらって、E線の調弦を合わせ(十二平均律のF音よりもおよそ45cents低い)、それを基準に他の弦の調弦もしていきます。

それを基準に他の弦の調弦もしていきます。

 

ヴィオラのスコルダ奏者は、同じくコントラバスパートから、A線の第五倍音のCis音をもらい、D線の調弦を合わせ(十二平均律のCis音よりもおよそ14cents低い)、

 

それを基準に他の弦の調弦をしていきます。

 

このスコルダトゥーラがすごく効果的な響きを作り出すのです。冒頭を聴いてみましょう。

 

 

スコルダトゥーラが音響に対してどのような効果をもたらすか

ヴァイオリンのソリストが開放弦のパッセージを弾いている途中に、ヴィオラのスコルダが入ってくるのですが、ここで、なぜこのような効果的な響きになるのか、考察をしてみます。

スコルダトゥーラは、いわゆる「スペクトル楽派」の求める響き…つまり、倍音列を基準とした響きを叶えるために用いられています。

 

このヴィオラのスコルダトゥーラは、前述の通り、コントラバスのA線の倍音列を基準に取られた音律であるため、ヴィオラパートのCis音とヴァイオリンのソリストのA音が奏でるおよそ短6度の重なりは、平均律の響きよりも調和した美しい響きがするのです。つまり、ヴィオラパートのD線の開放弦(Cis)は、平均律音程のAの調和するものである、として考えると、G線(Fis)はDの、C線(H)はGの、A線(Gis)はEに調和する、と考えることができます。これは、ヴァイオリンがもつ開放弦G、D、A、Eと一致するため、ヴィオラのスコルダパートは、それらの自然ハーモニクスと同様の役割をする、調和のとれた美しい響きがするのです。

(文字にすると難しいけど、楽譜にして説明すれば、なんてことないことです)

よって、この後に続くパッセージも、短6度の重なりのまま進んでいきますが、その理由でとても調和した響きがします。すなわち、ヴィオラのスコルダパートは、他の平均律パートと「短6度(あるいは長3度)」の重なりが非常に美しいことが、ここまでで分かります。

 

それに引き継ぐように出てくるヴァイオリンのスコルダパートも同様の考察をしてみると、

ヴァイオリンパートのE線は、Gの第7倍音です。つまり、平均律とスコルダパートの音程が短7度である時、非常に調和がとれた美しい響きがすると考えられます。これを、ヴァイオリンパートのE線(F)はGの倍音として調和する音であると考えるならば、A線(B)はC、D線(Es)はF、G線(As)はBの倍音として調和すると考えられます。このうちの、A線(B音)とE線(F音)の音は、普通のヴィオラ、チェロ、コントラバスパートの、それぞれC線とG線のハーモニクスの役割をすることが分かります。

ヴィオラのスコルダパートとヴァイオリンソリストパートは長3度、ヴァイオリンのスコルダパートとヴァイオリンソリストパートは短7度の重なりが美しい響きがするわけですが、これは、この楽章でだけでなく、この協奏曲全体を支配する重要な要素です。

よくよくスコアを見てみると、ヴァイオリンソリストと同じ動きを、ヴィオラのスコルダパートは長三度の関係で、スコルダのヴァイオリンパートは短7度の関係で、同時に弾いている箇所がたくさんあります。

例えば、38小節目。

 

 

(スコルダパート同士も、例えばヴァイオリンのE線(F)と、ヴィオラのC線(h)はGを基音とした倍音列の並びに一致します。このことからわかる通り、二つの楽器が奏でる減5度の響きは、倍音列上に並ぶ音として、調和することがわかりますね。)

 

この協奏曲の響きの発想(倍音列を基準とした響き)を叶えるには、スコルダトゥーラのパートは必要不可欠なのです。そこには、やはり、ストイックに音響の美を求めるリゲティの姿がみえます。

 

 

冒頭からは、ソリストもオケの弦楽パートも開放弦(=完全5度と、その転回音程の完全4度)の、と、それの自然ハーモニクスのみを用いたテクスチュア(=セクションを構成する素材)で作られていることがわかります。

各パートの各パッセージは各々独立した動きをしているように見えますが、よくよく目を凝らしてスコアを見てみると、開放弦と、その開放弦のハーモニクスに当たる音が瞬間的に交わるような場面が散見されます。

 

このような、瞬間的な透き通ったような煌めきや、スコルダトゥーラの効果的な使用といった、随所随所に施される工夫が、効果的な音響を作り出している一つの要因として考えられるのでしょう。

 

さて、ここらへんで音律の話から脱したいと思います。。(数字に弱いので、書いていて疲れました。)

 

曲の大まかな構成について

最初に、プロローグの大まかな構造について説明しておきます。

ざっくり言えば、

[A(a-b)-B(c-c’-c”)]ー[C(ac-ac’)]ー[A(a-b)-B(c)-A(b’)]

という形式として取ることができます。これは、[A-B] の部分を提示部、[C]の部分を展開部、[A-B-A]の部分を再現部+Codaとして、つまり、古典的なソナタ形式ということができるでしょう。(聴いていても、全くそんな感じはしないのですがね。。。)

 

各セクションの大まかな特徴の説明をしておきます。

是非、音源を聴きながら、耳で構成を確かめてみてください。。

 

[提示部]

A    第一主題…開放弦、ハーモニクス、半音階

a…0’42〜(Vnソリスト、弦楽パート)

開放弦と、その自然ハーモニクスによるパッセージから成る。

 

b…1’20 〜(Vnソリスト、打楽器、弦楽パート   )

開放弦とハーモニクスからなる靄のような音楽から、突如としてソロ・ヴァイオリンがメロディーを不規則的なリズムで奏で始める(それをマリンバが補強している。)それは、まるで風に揺られる水面に石が投じられるかの如く、突拍子もなく始まる。途中から、そのメロディの裏で、半音階が不規則に上昇する。

半音階パートが上昇しきったところで、一方、ヴァイオリン・ソリストはなだれ落ちるようにして、第二主題へ突入する。

 

B    第二主題…複雑な拍子の組み合わせ

c…2’21~(Vnソリスト、木管パート、打楽器、弦楽パート)

9拍子と7拍子の組み合わせ。(→以下、これを拍子Aとおく。)(8分の(3+2+2+2)拍子 + 8分の(3+2+2)拍子)

 

 

木管パートは3,2,2,2、3,2,2のフレーズで、5度音程の組み合わせを絶え間なく奏で続ける。その裏で、弦楽パートは、拍子(リズム)を強調をするかのように、その頭拍を打ち続ける。

ソリストはその拍子に関係なく、技巧的なパッセージを奏でる。

 

 

c’…2’35くらい〜(Vnソリスト、木管パート、金管パート、打楽器、弦楽パート)

木管パート(オーボエは除く)、弦楽パートは上の拍子を弾き続けながら拍子A

ヴァイオリンソリスト、スコルダパート、打楽器パート、金管パート、オーボエは5拍子と7拍子の組み合わせ(以下、これを拍子Bとする)を奏でる。(16分の(3+2)拍子+16分の(3+2+2)拍子)

 

 

c”…2’43(Vnソリスト、木管パート、金管パート、打楽器、弦楽パート)

ほどなくして、ソリスト以外の楽器の拍子が、拍子Aになる。低弦パートのフレーズをティンパニが模倣する形を取りながら、第二主題は終結する。

(42小節目、低音パートとtimpaniのみ書き出した楽譜。)

 

[展開部]2’52〜

ac…Vnソリスト、木管パート、金管パート、打楽器、弦楽パート

第二主題の拍子を引き継ぎながら、スコルダパートは開放弦でパッセージを(a、第一主題)を弾く。

ここでは、低弦パートと、スコルダパート、ティンパニが拍子Aを、

それ以外のパートが拍子Bを奏でる。

⭐︎第二主題の時は、拍子Aの組み合わせを弾くパートの方が多かったが、展開部では逆転する。

 

 

ac’…Vnソリスト、木管パート、金管パート、打楽器、弦楽パート

第二主題の要素は徐々に消え、aが発展したものへと形を変えていく。

次第に、主にスコルダパートが開放弦を、ソリストと弦楽パートはそれに引き出されるようにハーモニクスを奏で始める。(3’22~)

(ヴィオラのスコルダパートが、Dの第5倍音・Fisを奏でると、それに呼応するかのようにD線のハーモニクスを奏でる、といった具合に。)

管楽器は、響きを補強する役割をする。

 

途中で、ヴァイオリンのスコルダパートが拍子Aで、開放弦のパッセージを奏でると、それをトランペットが模倣するかのように引き継ぎ、再現部に移行する。

 

 

[再現部]3’40~

a…3’40(Vnソリスト、木管パート、金管パート、打楽器、弦楽パート)

冒頭に戻る。ヴァイオリンソリスト、スコルダパートが開放弦のパッセージを奏で、ほかの楽器はハーモニーを奏でる。突如として、ソリストとスコルダパートに不規則に上昇するメロディが現れる。

 

b…4’01~(Vnソリスト、木管パート、金管パート、打楽器、弦楽パート)

木管パートは拍子Aで、低弦パートはその拍子を強調するかのように拍頭だけpizz.をする。

ソリストはその拍子に関係なく技巧的なパッセージを弾く。

 

 

[Coda]4’13頃〜

a…Vnソリスト、木管パート、金管パート、打楽器、弦楽パート

ヴァイオリンのソリストが開放弦のパッセージに戻ると、オケの弦楽パートも開放弦とハーモニクスのパッセージを弾き始める。そして、ソリストが半音階下行のパッセージを弾くと、様々なパートがそれを模倣し、どんどん消えて行くような音響となる。最後の半音階はティンパニが引き継ぎ、大太鼓がリズムのみを引き継ぎ、消えるようにしてこの楽章は幕を閉じる。

 

 

 

フレーズの構造について

第一主題(b)ソロ・ヴァイオリンのメロディの構造について

開放弦とハーモニクスからなる靄のような音楽から、突如としてソロ・ヴァイオリンがメロディーを不規則的なリズムで奏で始めます。(それをマリンバが補強しています。)それは、まるで風に揺られる水面に石が投じられるかの如く、突拍子もなく始まります。

このヴァイオリンのメロディが奏でる音を書き出してみると、以下の通り。

 

3つの音ごとにグループとして考えてみる(音楽理論では、これをトリコルドの集積と言うことができます)と、3度音程と2度音程から構成されていることがわかります。

 

もしかしたら、テトラコルド(完全4度音程を、3つの音程で分けたもの。ドレミファ・ソラシド等)の変形した形として捉えても良いのかも知れません。

 

そして、これらから成るっメロディは、左右対称の鏡の構造が取られており、その中心軸からまた新たな鏡の構造が構成されており…といった具合に、フレーズの中央が、次のフレーズの継ぎ目(のりしろ)となるよう構成されています。これは、まるでウェーベルンのよう。

一部、書き出してみると、こうなります。

フレーズが進むごとに、フレーズの頭(結尾)とフレーズの中央の音(中心軸)の高低差が拡大していることがわかります。

 

第二主題(c)リズムセクションのフレーズの構造について

ヴァイオリンパート1を取り出して考察してします。

 

このフレーズを、まず4度音程、あるいは5度音程で動くところにスラーを置いてみます。

こんな感じ。

 

では、ここで、仮に4小節目〜5小節目のように、3つの音で2つのスラーがかかっているところに注目してみます。

フレーズの終わりを、そこの箇所の3つ目の音そしてフレーズが終わった音に設定し、

フレーズの出発点を、中央の音にして、新たに大きなスラーをかけてみます。

 

 

このフレーズの分け方が、リゲティが意図したものであるかはわかりかねますが、さて、何か気づくところはありますか?

そう、2つ目の大きなフレーズBは、最初のフレーズAと構造、音程関係が酷似しているのです。そして、それは拍子とはmまた少しずつずれながら、繰り返されるのです。

ここのセクション(第二主題)は、拍子が入り乱れ、フレーズが入り乱れ、とても複雑な箇所のように思われますが、押し化すると思った以上にシンプルな発想なのかもしれません。シンプルな発想の組み合わせ(それを、譜面という型に流し込むと複雑になる)と、それを貫き通すリゲティのストイックな姿勢が、私たちの心を惹きつけ、(例え、要求される技巧が超人的なものだとしても)幾度となく演奏されるのでしょう。

 

 

 

 

音響観点で特筆したい点はまだまだあるのですが、この楽章はこの辺りで終わりたいと思います。

是非、機会があればスコアをくまなく見てみてください!

それでは。

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